十八年の時を待つ、野生の魂 実生ゆず

ゆずには、二つの生き方があります。

一つは、成長の早い「接ぎ木ゆず」。カラタチなどの台木に接ぎ木され、4〜5年で実をつけるため、今流通しているゆずのほとんどがこの接ぎ木によるものです。

そしてもう一つ――それが「実生(みしょう)ゆず」。

自然が育てた果実

実生(みしょう)ゆず

種から芽吹き、幾重もの季節を越え、初めて実を結ぶまでに十八年。人の手を借りず、山の斜面や荒れた地に根を張り、風雨に晒されながら、ただひたすらに“生き抜く”という時間を重ねていきます。

その生命力は、野性そのもの。実を収穫するにも時には山を登り、険しい地形と向き合わなければならない――ゆえに年々、その収穫量は減り、今やゆず全体の収穫量の僅か0.2%(推定値)と極めて貴重な存在となっています。

香りは鋭く深く、味は濃く力強い

芳醇な香りと味わい

そのひと粒の中に宿る香りと味わいは、まさに別格。

力強く、深く、芳醇。酸味と甘みの輪郭が際立ち、口に含めば、ゆず本来の野趣あふれる風味が広がります。

人が育てるのではなく、自然が育てた果実。

実生ゆず――それは、時間と大地が紡いだ、香りの芸術です。

  • 実生ゆずの木

    実生ゆずの木は、整えられた畑の規律とは無縁の存在です。

    その姿は、まるで山の精霊のように荒々しく、自由奔放。枝は四方八方に伸び、太くねじれ、時に空へ、時に地を這うように広がります。その幹には深いひび割れと苔が宿り、年月を刻んだ風格がにじみます。

  • 自然と闘いながら育った証

    鋭いトゲが幹や枝にびっしりと生え、まるで侵入者を拒むかのよう。その中に実る果実は、ひとつひとつが不揃いで、完璧とは程遠いかもしれません。けれど、その不揃いさこそが、実生の誇り。

    山の急斜面や岩の間に根を張り、自然と闘いながら育った証なのです。

  • 自然が選び、育てた“野生の美”

    その果実の皮は厚く、香りは濃密で力強く、まさに“山そのもの”を閉じ込めたよう。ひと搾りすれば、鋭い酸味と甘みが舌を打ち、立ちのぼる香りは、畑ではなく“山”の記憶を呼び覚まします。

    実生ゆず――それは、人が整えた美しさではなく、自然が選び、育てた“野生の美”。

    一樹ごとに、時間と風景と物語が刻まれた、ゆず本来の姿なのです。

北川村が誇る実生ゆず

長い歳月をかけ、自然の中でじっくりと育まれた北川村の実生ゆずは、香り高く、力強い味わいが特徴です。
先人が、そしてその心を継いだ私たちが大切に育てたこの実生ゆずの、野生の風味と深い香りを、ぜひ一度味わってみていただければ幸いです。自然とともに歩んできた北川村ならではの、この特別なゆずの魅力を、多くの方に感じていただけることを心より願っております。